戦術コラム ・ 2026-07-16
麻雀の押し引きはリーチ対応が9割 押す・引くを3秒で決める基準と安全牌の探し方
最終更新:2026-07-16
前回の配牌構想編で、配牌の3秒で設計図を決める方法を書いた。ただしあの記事の設計図には、ひとつ大きな前提があった。「誰も向かってこなければ」という前提だ。
実戦では平均して2局に1回以上、誰かのリーチが飛んでくる。その瞬間、麻雀は「自分の手を育てるゲーム」から「相手の待ちを避けながら進むゲーム」に変わる。ここで正しく振る舞えるかどうか——いわゆる押し引き——が、実は麻雀の成績のいちばん大きな部分を決める。上級者の間で「麻雀は押し引きが9割」と言われるのはそのためだ。
この記事では、リーチを受けた瞬間に3秒で押す・引くを決める基準、安全牌の探し方の序列、そして「降りる」の正しい手順までを一本にまとめる。前回同様、考え方はすべて特訓の間で実戦練習できる。
押し引きの正体:天秤に載っているもの
押し引きとは損得の天秤だ。左の皿には押して得られるもの(自分の和了点+和了して相手の手を流す価値)、右の皿には押して失うもの(振り込みの点数×振り込む確率)が載る。
ここで大事な数字を2つだけ覚えてほしい。リーチの平均打点はおよそ5,000〜6,000点。そして無スジの牌を1枚押して振り込む確率はおよそ5〜15%。つまり危険牌を1枚押すたびに、期待値でざっくり300〜900点を支払っている計算になる。テンパイしていない手でこれを何枚も払い続けると、天秤は簡単に赤字へ傾く。
この構造から、押し引きの土台になる大原則が導ける。
- テンパイなら基本は押す。自分にも和了の抽選権があり、天秤の左の皿が重い
- 2シャンテン以下なら基本は引く。完成までに危険牌を何枚も押すことになり、ほぼ確実に赤字
- 1シャンテンだけが「考える場所」。ここの判断精度が実力差になる
3秒チェック:テンパイか、打点はあるか、何巡目か
リーチの声が聞こえたら、次の3つを順に確認する。配牌構想と同じで、チェックの順番を固定しておくと迷わない。
①自分はテンパイか。テンパイなら原則続行。良形(両面以上)ならほぼ無条件で押し、愚形でも打点があるなら押していい。
②打点はあるか。同じ1シャンテンでも、満貫が見える1シャンテンと1,000点の1シャンテンでは天秤の左の皿がまるで違う。ドラ3の手なら多少の危険は押す価値があるし、役なしドラなしの手で危険牌を押すのはただの募金だ。
③何巡目か。序盤のリーチ(〜6巡目)は相手に時間があるぶん脅威で、こちらの手も育っていないことが多いから引き寄り。終盤(13巡目〜)は残りツモが少なく、押しても数枚で終わるため、テンパイなら形式テンパイ狙いも含めて押し寄りになる。
押し引き早見表
| 自分の手 | 良形テンパイ | 愚形テンパイ | 1シャンテン | 2シャンテン以下 |
|---|---|---|---|---|
| 打点が高い(満貫級〜) | 全部押す | 押す | 良形なら押す | 引く(現物温存) |
| 打点が普通(3,900前後) | 押す | 押し寄り | 安い危険牌だけ押す | 引く |
| 打点が安い(〜2,000) | 押し寄り | 状況次第 | 引き寄り | 即降り |
迷ったら思い出す一行はこれだ。「テンパイは押す。2シャンテンは降りる。1シャンテンは打点と形に聞く」。この一行だけで、押し引きの判断の8割はカバーできる。
安全牌の序列:何を切って逃げるか
「引く」と決めたら、次は何を切るかだ。安全度には明確な序列がある。上から順に安全。
- ①現物 — リーチした本人が捨てた牌。フリテンのルールにより、ロンされる可能性はゼロ。安全牌の王様
- ②リーチ後に通った牌 — リーチの後で他家が切ってロンされなかった牌。これも以後は現物と同じくゼロ
- ③枚数の見えている字牌 — 場に2枚見えている字牌は、残り1枚では刻子も対子も作りにくく、ほぼ安全(単騎待ちだけ残る)
- ④スジ — 相手の現物が4なら、1と7は「両面待ちには」当たらない。ただし嵌張・辺張・単騎には当たるので、安全度はせいぜい8割
- ⑤無スジの数牌 — 何の情報もない牌。危険
1・4・7
4が現物なら1と7がスジ
2・5・8
5が現物なら2と8がスジ
3・6・9
6が現物なら3と9がスジ
スジは「1・4・7」「2・5・8」「3・6・9」の3グループで覚える。理屈は単純で、両面待ちは必ず「4を切っていたら1-4か4-7のロンができない(フリテン)」という構造になっているからだ。ただし繰り返すが、スジは両面にしか効かない保険。過信は禁物で、現物が尽きたときの次善手と考えるのが正しい。
実戦:この手、押す?引く?
問1:良形テンパイ
ツモ5索で45索の両面ができた。2筒を切れば3索・6索待ち、雀頭はドラの88索でドラ2・良形のテンパイだ。ただし切る2筒は無スジだとする。押すか?
判断は押しだ。良形・ドラ2・8巡目。天秤の左の皿には8,000点近い期待値が載っていて、無スジ1枚の放銃リスク(期待損失数百点)を大きく上回る。ここで2筒を抱えて降りるのは、当たりくじを破り捨てる行為に近い。押すと決めたら、それ以上は迷わず真っ直ぐ打つ。中途半端がいちばん損だ。
問2:安い1シャンテン
1シャンテンだが、役なし・ドラなし・待ちも整っていない。完成してもリーチのみの1,300点がいいところ。天秤の左の皿はスカスカだ。
判断は引き。現物から切って、以後この局は「振り込まないこと」だけを目標にする。もったいなく感じるかもしれないが、期待値の言葉でいえば、この局面で無スジを2枚押す損失は、この手の和了価値を上回る。安い手で押すことは、宝くじを定価の3倍で買う行為だと覚えておこう。
ベタオリの技術:降り方にも上手い下手がある
降りると決めたら徹底的に降りる。これをベタオリと呼ぶが、ただ現物を切ればいいわけではない。上手いベタオリには手順がある。
- 現物を安い順ではなく「枯れる順」に切る。今しか切れない現物(次巡には他家に危険になるかもしれない牌)から切り、字牌や複数枚ある現物は後半のために温存する
- 現物の「枚数」を数えてから降りる。残り巡目ぶんの安全牌があるか先に確認する。3巡ぶんしかないのに10巡残っているなら、途中でスジや字牌に頼る計画まで立てておく
- 手の形をなるべく壊さない順で切る。安全牌が同じ安全度なら、手の復活可能性が高い牌を残す。リーチ者が途中でツモ和了して局が流れることも多く、降りながらテンパイが戻ることもある
この「降りながら手を残す」の延長線上に回し打ちがある。現物や安全牌を切りながら、テンパイの可能性も細く残す打ち方だ。ただし回し打ちは中級以上の技術で、条件は「安全牌が十分にあること」。安全牌が2〜3枚しかないのに回そうとすると、途中で無スジを掴んで最悪の中途半端押しになる。迷うレベルのうちは、きっぱり降りるほうが成績は良い。
終盤だけの特殊ルール:形式テンパイ
流局時、テンパイしていれば1,000〜3,000点を受け取り、ノーテンなら支払う。この差は最大4,000点にもなるため、終盤(14巡目以降)は「役がなくてもテンパイを保つ」こと自体に価値が生まれる。
だから終盤の押し引きは少し変わる。残り数巡なら、通っていない牌でも「あと2枚押せば形式テンパイが取れる」場面で押す選択肢が出てくる。逆にいえば、終盤に安全牌を切ってノーテンに落ちるのは、それ自体が小さな失点だ。序盤・中盤の引きは固く、終盤の引きは形式テンパイと天秤にかける。ここまで含めて押し引きである。
特訓の間のAIは、実はこれを全部やっている
特訓の間のAI英傑たちは、この記事の内容をそのまま計算で実行している。リーチが入ると全ての牌の放銃率を推定し、自分の手の期待値と比較して押し引きを決め、降りるときは現物と通った牌(通し安全牌)だけを選んで切る。守備型の司馬懿が簡単に振り込まないのはこのためだ。
つまり特訓の間でリーチを打ってみると、AIがどの牌を止めたかで「守られ方」を体験できるし、逆にAIのリーチに対して自分の押し引きを試せば、この記事の答え合わせになる。先生モードをONにしておけば、危険牌を押した瞬間に関羽先生が指摘してくれる。
まとめ — リーチの声が聞こえたら
- 1秒目:自分はテンパイか。テンパイなら原則押し、2シャンテン以下なら原則降り
- 2秒目:1シャンテンなら打点と形に聞く。満貫級・良形なら押し、安い・愚形なら引き
- 3秒目:降りるなら現物の枚数を数え、枯れる順に切る計画を立てる
- 終盤:形式テンパイの価値を天秤に足す
攻めの設計図(配牌構想編)と守りの天秤(この記事)が揃えば、麻雀の骨格は完成だ。あとは何切るドリルの上級には押し引き問題が、「構想」レベルには配牌問題が入っているので、牌をクリックしながら体に落とし込んでほしい。
押すも引くも、決めるのは3秒でいい。決めたら、迷わず打とう。自分がいまどの段階にいるかは上達ロードマップで確認できる。